保育園民営化の問題点
ある時、保育士である組合役員から「保育園のこと、ブログの記事にするなら私に見せてね」と告げられました。
事前検閲? 信用されていないなと思いながら「職場の組合員と話してないような踏み込んだこと書かないよ」と弁明。
「個人的なブログでしょ。そうじゃなくて、後でいいから私にも見せて」との要望でした。
要するにインターネットを見る習慣がないので、ぜひ、自分の職場に関係ある記事は見たいとのことでした。つまり4か月間、これだけ組合に関係する記事を発信してきましたが、その女性役員(レアケースだと思いますが?)は、ほとんど目にしていなかったようです。
他にも「見てくれてる?」と組合員に聞いた時、「忙しくて見てない」との返事をもらったことがありました。日常的にメールやブログなどをチェックしている自分から考えると「忙しくて見れない」の言葉が不思議でしたが、その程度の関心の度合いであるとも考えられ、少々さびしい思いがしました。
一方、これだけインターネットが普及していても、毎日、必ず自宅のパソコンに向かう人の割合は決して高くないのかも知れません。さらに私の役所では、情報保護の観点からインターネット端末の配置は各職場一台程度にとどめています。したがって、インターネットに接することが稀な方は予想外に多いのだろうと思い始めています。
さて、ようやく本題です。最近、保育園の民営化が急速な広がりをみせています。もともと公立保育園と社会福祉法人などが運営する私立保育園が共存していましたが、完全な民間企業へ委託されるケースが増え始めています。
週刊誌AERAが2005年11月21日号で、「保育園民営化は保育放棄なのか」との特集記事を取り上げていました。都内のある区では父母2万3千人の反対署名を押し切り、今年9月に区立保育園を民間業者へ委託したとの話が紹介されていました。その委託化は財政再建の一環であり、保育の充実という構想ではない点も記されていました。
保育園経費の大部分が人件費です。つまり民営化は、公務員である保育士を民間の保育士へ置き換えることにより、保育園経費のコスト削減を意味しています。さらに受託した企業がより利益を上げるために保育士の賃金を抑制し、安い給料で雇用できる若手保育士中心の保育園としていく恐れがあります。
このことは今までも私立保育園の一部で見られた傾向でした。中には年齢が高くなった保育士が退職せざるを得ない雰囲気の園もあるように聞きます。この傾向は純粋な民間企業の参入が増えれば、ますます顕著になっていくかも知れません。
AERAの記事で、子どもを感情的に叱り飛ばすことなど論外、子ども一人ひとりが違って当たり前、子どもの内面やその育ち方を見て、トラブルがあっても子どもたちの力で解決していけるよう見守ることが大事だと、ベテラン保育士の言葉などが紹介されていました。
やはり保育の質を担保するためには、若い保育士だけではなく、熟練した経験豊富な保育士の存在が欠かせないはずです。加えて、一人ひとりの子どもを適切に見守れる保育士の配置基準は非常に重要です。それがコスト削減の対象となり、万が一、過密な基準を強いられた場合、子どもの安全面や「子育ち」の面で憂慮すべき事態となります。
AERAの結びの箇所では、東京大学大学院の汐見稔幸教授のお話が掲げられていました。このブログで主張したい内容を汐見教授が的確に提起されていましたので、その要旨を紹介させていただきます。
このままコスト削減を目的とした民営化が進めば、保育園はレベルダウンする。集団の中で、それぞれの個性を見分け、自主性を伸ばし、知的な力、感情の力を伸ばす。「預かる」ではなく、「育てる」時に保育者の力の差が出る。いい人材を育てるために、公的な資金を使って、いい保育者や環境を用意するのは国の責任である。行革が必要なのは分かるが、保育においては安上がりに数をこなすという論理はなじまない。
最後に一言。「保育園の先生になりたい」とあこがれている幼い女の子は今でも多いと思います。あこがれの職業が低賃金でしか働けない、そんな社会にならないよう公立や民間問わず保育士の皆さんの待遇改善に努めていかなければと考えています。
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コメント
今回のカキコみも、直面している課題の一つですね。
内容、主張されていることは、私の考えと同じです。
保育所とは、そもそも高度経済成長期における労働者家庭の問題(核家族化が進行し、幼い子どもを看る事ができないなど)を解決する、いわば公共の福祉として設立したものでした。
しかし、行革の槍玉に挙げられ攻撃されている状況があります。
これは、国の責任放棄(公共の福祉の切捨て)と言えます。
また、前回もカキコみしましたが、若い労働者が安い賃金で働かされている職場でもあります。以前、民間の保育所で働く人と話したことがありますが、25~26歳で時給800~900円という実態でした。
また『月刊労働組合』編集部の方の講演では、民間の保育所では年配の人は所長さんのみで、この方が、事務、保育士の手配、保護者との懇親等々を行っており、この所長さんの多忙さと、また低賃金の上に保育は重労働でもあるため若い保育士はどんどん辞めている実態が話されました。
こうした民間職場の実態を知り、官民一緒になって職場実態の改善をしていかなくてはならないと感じます。
投稿: アンディ・ベム | 2005年12月20日 (火) 16時17分
「月労」編集部の方の講演は日曜日に聴きました。アンディさんのカキコの通り、「公設民営」の保育所の保育士さんは一部を除いてほとんどパートだそうです。しかもその辺のコンビニの時給より安く抑えられていて、(コンビニのバイトを悪くいうつもりはありませんが)あまりにも低賃金のためどんどんやめていくそうです。(アンディさんの繰り返しですみません)
また、その講演では、自分たちの賃金・労働条件を守るたたかいは勿論、こういった低賃金労働者を作らないたたかい(具体的には公契約条例の制定など)を真剣に取り組んで欲しいとのことでした。
投稿: DJまいうー | 2005年12月20日 (火) 17時15分
アンディ・ベムさん、DJまいうーさん、さっそくコメントありがとうございます。
同じ問題意識を持っている方たちとの意見交換は非常に心強く思います。
今後も、このような視点で投稿していきますので、よろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2005年12月20日 (火) 17時29分
子どもの置かれているは環境は、一昔前とはずいぶん変わってきています。その原因の分析は、長くなるのでここでは述べませんが、当然子どもたちへの対応も同じでいいはずがありません。さまざまな環境下で育っている子どもがいるのですからひとりひとりに応じた保育が望まれているのではないでしょうか?子どもが大人の意にそぐわない行動をとって同じように叱るのことは誰にでもできます。その子がなぜ問題行動をとるのか?その背景を探らなくてはなりません(危険がある場合は別ですが)。子どもの目線に立つことが必要です。そこにはとてもハイレベルな専門性が要求されるでしょう。時には母親のカウンセリングが必要でしょう。民間にまねできないところはその辺ではないでしょうか?
1.充実した研修体制の確立。
2.児童相談所、家庭支援センター、児童心理師臨床心理士などと緊密な連携
これらはなかなか民間はまねできないと思います。
今まで長い間家庭に踏み込むことはしてはならないこととされてきました。しかし、これからは保育園の職員が園児の家のチャイムを押すときがくるかもしれません。子どもたちの幸せのために。
投稿: ぷにぽんた | 2005年12月21日 (水) 21時44分
公務員夫婦はどちらか辞めろ
今の中、今、不況風が蔓延し、非正規社員を容赦なく打ち切りにしたり、前途ある大学生の内定を取り消ししたりと、
非情な理不尽極まりない仕打ちがまかりとおっている。
ところで、不況になると、公務員の人気が高くなる。
その公務員への道だが、大学生や高校生が、晴れて難関の試験に合格しても、残念ながら、定員の関係で、採用枠が
限られており、なかなか採用に至らないのが現実だ。
そこで、この定員というか、採用枠を大幅に拡大する妙案がある。それは、他でもない公務員どおしで結婚した場合は、
どちらか一方が退職するというのを、制度化することだ。
これを、全国で実施したら、それこそ何万人という採用枠が生まれるはずだ。その組合せは、国家公務員のみならず、地方公務員
と国家公務員、教員、警官など、組合せはいろいろだが、とにかく公務員どおしの夫婦は、片方が退職するようにする。
公務員は、世帯に1人とするような規則を設ける。
おそらく、こんなに効果のある、失業対策・雇用対策はないだろう。やはり、一軒の家に、二人も税金で優雅に暮らす人間がいるのは、不公平であり、二人力馬車なんていう言葉もあるとおり、二人合わせて月収60万~80万円は堅いのではないか。たぶん、
世の中の旦那様で、こんな高給取りは、めったにいないと思う。
非正規社員は、今日明日の生活も、ままならない人が一杯いる。大学生も同じく、毎日不安な日々を送っているだろう。
この皆さんを、なんとかしてやりたい。その一心でこの文章を書きました。
以上のように、公務員夫婦は、どちらか一方が、潔く身を引き、内定取り消しされた学生や、非正規社員に道を譲ったらどうか。
そして、幸せは独り占めしないで、ワークシェアリングの精神で、国民皆に、広く公平に幸せを分配したらどうか。
投稿: | 2008年12月28日 (日) 19時43分
社会福祉公僕が業務なので、収入は1人分で充分です。
給与待遇に税金が2倍かかっていると同じです。
1人分を社会福祉に廻せば、全国でかなりの人が救われる。
投稿: | 2009年12月11日 (金) 21時33分
2009年12月11日(金)21時33分に投稿された方、ご訪問ありがとうございます。
「収入は1人分で充分です」は夫婦共稼ぎの話と絡んでいるのでしょうか。それとも人件費全体の指摘でしょうか。そのあたりが分かりませんので、具体的なレスが必要な場合は改めて投稿くださるようお願いします。
ぜひ、その際はコメント欄での議論をスムースに行なうためにも、HNで結構ですので名前欄だけはご記入ください。
投稿: OTSU | 2009年12月11日 (金) 22時37分