市役所の窓口業務も民間参入?
最近、この「公務員のためいき」は組合活動や政治的な話が多くなりがちでした。前回の記事へasaやんさんとアンディ・ベムさんから公務のあり方や広い意味での働き方について、いろいろ貴重な問題提起となるコメントをいただきました。的確な答えは簡単に出ないかも知れませんが、今後、具体的な事例を取り上げながら公務のあり方などについて議論できる記事を増やしていきたいと考えています。
「規制緩和」と「官から民へ」の小泉デタラメ政治がマンションの耐震強度偽装問題を引き起こした、と昨日発行の「日刊ゲンダイ」は一面記事で取り上げていました。このような最新の話題から切り込むのか、20年ほど前にイギリスやニュージーランドなどが始めたニュー・パブリック・マネジメントの歴史から入るのか、テーマの切り口は数多くあって少々迷いました。それぞれいつか取り上げたい題材ですが、今回は自分の職場にとって一番身近な具体例をイントロダクションとして扱ってみました。
政府は22日、公共サービスの担い手を官民の競争入札で決める「市場化テスト」の対象として、住民票の写しの交付など6種の地方公共団体の窓口業務を盛り込む方針を決めた。来年の通常国会に提出予定の「公共サービス効率化(市場化テスト)法案」に関連法案の特例として盛り込む。希望自治体は早ければ来年度中にも民間会社への委託が可能となる。
対象は住民票のほか、戸籍謄本▽外国人登録原票▽納税証明書▽戸籍の附票▽印鑑登録証明書の請求受け付けや発行業務。この日開かれた政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)で所管する総務、法務両省が明らかにした。
同推進会議は「個人情報保護などの安全性に配慮が必要だが、民間企業による利用時間の延長や夜間、休日対応が期待でき、住民の利便性が大幅に向上する」と両省に規制緩和を求めていた。【毎日新聞 2005年11月22日】
この記事を目にした時、正直驚きました。私どもの役所でも市民課に関連する窓口業務(上記以上に広げた内容です)の民間委託化などの検討計画があり、数日前、実施にあたっては労使協議が必要であると市当局側をけん制した矢先だったからです。市場化テストの問題点は別な機会に譲るとして、いくつか検証すべき点を提起させていただきます。
戸籍法などの制約から民間業者だけで完結できないため、市職員と混在する窓口業務が円滑に運営できるのか非常に疑問です。そもそも委託契約による民間業者は、市の管理職の直接的な指揮命令下に入れない法的な制約があります。仮に法的な問題が整理できたとしても、市役所の顔であるべき窓口職場が民間業者中心となって良いのでしょうか。
ここで誤解を招かないよう常に言い続けなければならない点があります。公のサービスが良質で、民のサービスが劣るという発想は絶対あり得ないという点です。それぞれの場面に応じた性格や役割を踏まえ、市民サービスにとって見ても、どちらが適切なのか判断すべきものと考えています。
組合が組合員の雇用を守ることは大前提ですが、そのための理由だけで民間委託反対と叫んでも市民からの共感は得られないものと認識しています。以上の視点を踏まえた上で、業務ごとの各論に対して現場を熟知している職員側イコール組合側が反証していくことが重要なはずです。
窓口業務の例で考えれば、訪れる市民への応対の仕方は多種多様なものが求められています。市民が市役所へ求めるニーズも当然様々で、住民票一つとっても出せるか出せないかの判断も複雑です。付け加えれば、この判断自体が公権力の行使だとも言えます。
いずれにしても職員は、正確性を第一に心がけ、法律条例規則に照らして公正であるか、相手によって対応を変えない公平性に気を使い、そして、市民が満足いく接遇に力を注いでいます。とにかく窓口業務をスムースに受け付け、気持ち良く市民の方に帰っていただくため、職員は必死に勉強し、日々努力しています。
さらに市民と直接相対する場面となる窓口や相談業務は「効率化」の言葉がなじまないものと考えています。極端な効率化を進め、職員が抱えるルーチンワークの密度が濃くなりすぎた場合、職員自身が不本意と感じても市民との会話時間を「効率化」する必要が生じてきます。そのことは「冷たい市政」の印象をもたらし、決して好ましいことではありません。
また、市民と接する最前線の職場である窓口業務を職員以外に委ねるとしたら、市政にとって一番大事な触覚を手放すことと同然だと考えています。加えて、職員のスキルアップのためにも窓口職場の経験は貴重であり、行政全体にとっても大きなメリットだったはずです。
最後に、計画を進めている市幹部の皆さんへ一言。このような計画が検討されていること自体、一生懸命頑張っている職員のモチベーションが下がり気味になることをお気づきでしたか。
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