2014年10月19日 (日)

原発事故後の福島

東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故後、初めての福島県知事選挙が10月9日に告示され、10月26日に投票日を迎えます。地元のメディア以外、選挙戦を取り上げる報道が少なく、全国的な関心の度合いはあまり高まっていません。このあたりは滋賀県知事選挙の時と少し様相が異なっていますが、民主党と社民党が支援する候補に自民党と公明党も相乗りしてきた構図から予想されたことでした。今回、自民党本部が負けないことを優先し、県連の独自候補を強引に断念させた経緯がありました。

自民党も支援する候補者は現職の佐藤雄平知事の後継候補であり、政策会見では「県内原発全基廃炉」を訴えています。そもそも福島県は「脱原発」を宣言していましたので、自民党が佐藤知事の後継候補を支援することに違和感もあります。しかし、自民党からの支援を受けた結果だろうと思いますが、全国の原発再稼働の是非については触れることなく、他の候補者との違いも見られています。いずれにしても無所属6名で争われている選挙戦は「与野党対決」「脱原発の是非」という論点が成り立たず、マスメディアにとって力を入れにくい構図になっているようです。

この時期に合わせた訳ではありませんが、先々週の金曜夜、私どもの組合員対象の学習会「原発事故から3年、フクシマの子ども達は今~美味しんぼの鼻血論争の真実は?~」を開きました。ふくしま共同診療所の医師である杉井吉彦先生を講師にお招きし、福島の現状や甲状腺がんの問題についてお話いただきました。人気漫画『美味しんぼ』の鼻血論争を副題にしていましたが、そのくだりはサラッと触れただけでした。副題に興味を持って参加した方にとっては少し物足りなさを残したかも知れませんが、それ以上に福島の現状をはじめ、いろいろ貴重なお話を聞かせていただきました。

杉井先生のお話の要旨を書き進めてみますが、福島県民は約200万人、そのうち今も13万人が避難生活を送っています。300万円の弔慰金支給が認定された関連死は1700人を数え、さらに増え続けているという話でした。年間の被ばく線量20ミリシーベルト以下は帰れるようになっていますが、帰れば半年で補助金は打ち切られます。帰っても食料品などが近くで購入できない地域であり、そもそもチェルノブイリ原発事故後、10ミリシーベルト以上は強制避難区域になっていたそうです。帰りたいが、帰れないという葛藤があり、県民の中に「キズとミゾ」が深まっているとのことです。

除染で出た汚染残土を集める中間貯蔵施設を福島県内に建設する計画があります。30年間という期間限定ですが、国は私有地を買い取ろうとしています。ただ売ってしまえば完全に帰れなくなる、国が30年間という約束を守らなくなってしまう恐れも心配し、そのような複雑な思いが絡まり、売却することをためらう地権者が多いそうです。福島第一原発の4号機はむき出しで、1号機、2号機、3号機に1日200トンの水を流し込む作業が続いているだけで、ようやく来年になって原子炉の取り出しに入れるかどうかとのことでした。

事故直後、放射能がどれだけ出たのか、チェルノブイリに比べて情報が圧倒的に少ないそうです。情報が少ないのに放出された放射線量は「チェルノブイリより少ない」と話し、福島県内の子どもたち30万人のうち104人が甲状腺がんの疑いがあり、58人が手術したという事実も「原発事故の影響とは考えにくい」と言い切る専門家への不信感を杉井先生は訴えられています。福島医大の流れ作業のような検査方法や情報開示の問題に関しても疑義を示されていました。

ちなみにチェルノブイリの時は5年後から甲状腺がんの増加が認められたため、今回の原発事故が影響だとすれば「早すぎる」という声もあります。しかし、チェルノブイリ原発の事故直後にはエコー検査できる設備がなく、正確な統計資料として残っているものが5年後以降という話を伺いました。広島と長崎への原爆投下後、放射線による内部被ばくはDNAに影響を与え、被爆2世に繋がることを「私たちは知らなかった」という説明を杉井先生は付け加えられています。

極めて情報が乏しい中、子どもたちの甲状腺がんの原因が「原発事故の影響とは考えにくい」と決め付けてしまうことの問題性を繰り返し話されていました。安倍首相が東京オリンピックを招致するための演説の際、福島の原発事故を「アンダーコントロール」と強調していたことに対しても杉井先生は強い疑念を示されていました。甲状腺がんが多発しているという事実と向き合い、低線量内部被ばくの継続に対し、「避難・保養・治療」の原則のもとに長期の診療・健康増進に医師の一人として尽力したいという決意を杉井先生は語られていました。

なお、『美味しんぼ』の鼻血のくだりは次のとおりでした。「鼻血は生命に影響ない」とし、「事実は鼻血がいっぱい出ていた。ただ統計がない」というアッサリしたものでした。後日、一瞬だけ居眠りしてしまったという参加者から私に「鼻血の話はありました?」という問いかけがあったほど、杉井先生の立場からすれば「鼻血論争」は枝葉な話だと見られていたようです。その上で、とにかく「福島は安全だ」と強調したい人たちが多いことも補足されていました。

学習会の副題だった「美味しんぼの鼻血論争の真実は?」、上記のような端的な答えでした。福島の皆さんの中に事実誤認、誇張、捏造という見方をされている方が少なくなく、風評被害を心配された方々が多いことも承知しています。今回のブログ記事に向かう際、「福島の真実」の上巻にあたる『美味しんぼ』第110集を購入しました。残念ながら下巻となる第111集の発売時期は延期され、いつ発刊されるか未定となっています。そのため、肝心の鼻血の場面はネット上のサイトから一部を目にしただけです。

それでも第111集を読み終えた印象は、しっかりした取材をもとに淡々と事実を描写しているというものでした。したがって、鼻血の場面だけ捏造や誇張するような必然性が考えられません。杉井先生のお話も含め、「鼻血、医学的根拠ある」というサイトも見つけることができています。その中には福島県内の母親が「漫画全体を読み、福島への愛情を感じた。子どもに鼻血が出ても、話を聞く前から因果関係を否定するような人たちに私たちは本当のことは言わない。国の責任で鼻血を含めた健康調査をしてほしい」と訴えている記述も掲げられています。

私自身も『美味しんぼ』第111集を読み、「福島への愛情」という言葉に大きくうなづくことができています。「鼻血」ばかりクローズアップされ、連載当時、短絡的な風評被害に対する批判が強まっていたように記憶しています。しかし、前述した母親のように『美味しんぼ』の「福島の真実」を通読されていた方は真逆の思いを抱かれていたのではないでしょうか。ある場面での地元の方と主人公の父親である海原雄山、主人公の山岡士郎との次のような会話が、そのことを的確に表しているものと感じました。

地元 私たちのとこの放射線量は安全なのに、福島でひとくくりにされて怖がられるから、郷土料理もどうかなあ。

海原 安全なものは安全、危険なものは危険、きちんと見極めをつけることが福島の食材には必要なのです。消費者に真実を伝えなければいけない。それはわれわれの役目です。

山岡 安全なものと危険なものを見極めるためにも、福島の真実を知ることが必要なんです。

まさしく上記の言葉に尽きるものと思っています。万が一、危険なものを「安全」と見なしてしまった場合、取り返しのつかない事態に繋がります。加えて、情報に対する信頼が失墜し、それこそ福島の食材は危険だとひとくくりに敬遠されてしまいます。だからこそ真実を的確に把握していくことが重要であり、同時に伝え方の信頼性を高めていくことが、結果的に風評被害をなくす近道であるように考えています。

学習会の冒頭、委員長として挨拶した言葉の中に「目をそむけたい事実だったとしても、的確な判断や対応をはかるためには、しっかり見ていかなければなりません。本日、杉井先生から放射線の被ばくなど福島の現状を伝えていただくことで、原発再稼働の問題などに向けた判断材料の一つに繋がっていくものと考えています」と添えていました。原発の「安全神話」は崩壊したと言われていましたが、福島の原発事故の教訓が徐々に薄れてきているようにも感じています。

杉井先生の話では川内原発の再稼働に際し、周辺住民1万3千人にヨウ素剤を配布するとのことです。絶対安全なのであればヨウ素剤は必要ないはずであり、絶対安全だと自信を持てないからだろうと話されていました。いずれにしてもヨウ素剤を使うような事態が再び起これば、日本は二度と立ち直れないのではないでしょうか。今回、原発事故後の福島の現状を綴ってきましたが、最後に「アンダーコントロール」されていると言われている福島第一原発の現況を紹介させていただきます。

東京電力は14日、福島第1原発2号機東側にある井戸で13日に採取された地下水から、セシウムが1リットル当たり25万1000ベクレル検出されたと発表した。前回採取した9日と比べて3.7倍に上昇し、同原発護岸に設置された観測用井戸で採取された地下水のセシウム濃度としては、過去最高となった。東電によると、この井戸の地下水からは、セシウム134が同6万1000ベクレル、137が同19万ベクレル検出された。東電が放射性物質を含む水を敷地内に散水する際に定めた濃度基準値は、セシウム134が同15ベクレル未満、137が同25ベクレル未満。

また、ストロンチウム90などのベータ線を出す放射性物質も同780万ベクレル含まれており、9日と比べて3.7倍に上昇。ガンマ線を出すコバルト60やマンガン54の濃度も、護岸の観測用井戸の地下水で過去最高だった。この井戸の近くには、同原発事故直後の2011年4月に高濃度汚染水が海に漏れたトレンチ(ケーブルなどの地下管路)があるという。東電の白井功原子力・立地本部長代理は記者会見で「台風18号などで地下水位が上昇して、(トレンチから周辺に漏れた)過去の汚染水などに触れて、高い濃度が検出された可能性が高い」と述べた。【時事ドットコム2014年10月14日

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