2020年1月25日 (土)

安倍政権にとっての個人情報

このブログは週に1回の更新間隔のため、取り上げる題材に事欠くことが滅多にありません。今回も当初、前回記事「会計年度任用職員制度の組合説明会」の続きに当たる内容を考えていました。結局、週末を迎え、時事の話題のほうを選んでいます。

金曜日には私どもの組合の退職者会の新年会があり、毎年、来賓としてお招きいただいています。その時の挨拶の中でも触れた話題でした。安倍政権を支持されている方々にとって、下記のような報道は揚げ足取りのような些末な話だと思われるのかも知れません。

安倍晋三首相が20日の施政方針演説で地方創生の好事例として若者の移住推進策の中で紹介した島根県江津市の男性が、昨年末に県外に転居していたことが21日、市への取材で分かった。首相は施政方針演説で、同市が進めてきた若者の起業支援に触れ、男性がパクチー栽培に取り組むため、東京から移住したことを紹介。

市が農地を借りる交渉をして、地方創生交付金の活用で男性が資金の支援を受けたとした。男性の言葉も引用し、「地域ぐるみで若者のチャレンジを後押しする環境が移住の決め手となった」と述べた。市によると、男性は昨年末に個人的な理由で関東地方に戻ったという。【東京新聞2020年1月21日

市民課に在籍した経験から参考までに一言申し添えさせていただきます。「県外に転居」と書かれていますが、住民基本台帳法上、住民票を市外に異動する場合は「転出」と記します。市内での異動の場合のみ「転居」と表記しています。菅官房長官の記者会見を報道した下記ニュースの中では「転出」という表記に改まっていました。

安倍総理大臣が20日の施政方針演説で、地方創生の成功例として紹介した男性が、移住先の島根県江津市からすでに転出していたという指摘について、菅官房長官は、「演説内容は、本人に確認したうえで記載している」として、問題はないという認識を示しました。

安倍総理大臣は、20日の衆参両院の本会議での施政方針演説で、地方創生の取り組みの成功例として、農業を起業するための資金援助などを受けて、東京から島根県江津市に移住した男性を紹介しました。

これについて、菅官房長官は午後の記者会見で、記者団から「男性がすでに転出していたという情報がある」と指摘されたのに対し、「男性は、江津市の支援を受けて2016年7月に移住して起業するとともに、3年以上にわたって居住していると承知しており、起業支援の成功例として紹介した」と述べました。

そのうえで「演説内容は、本人に確認したうえで記載しており、問題はなかったと思っている」と述べ、問題はないという認識を示しました。一方で、記者団が「安倍総理大臣が演説を行う前に男性の転出を把握していたか」と質問したのに対し、菅官房長官は「演説内容以外の個人的な情報について答えるのは控えたい」と述べるにとどめました。【NHK NEWS WEB2020年1月21日

「普通に演説を聞けば、この移住した男性の話は現在進行形のように思える」という見方はその通りだろうと思っています。人口の社会増が実現した成功例として取り上げていますので、現在、江津市から転出しているという事実関係は軽視できません。

普段から安倍政権を批判的な立場で記事を重ねているLITERAは『安倍首相が施政方針演説でフェイク!』という見出しを付けています。他意のない単純な確認ミスなのかも知れません。それでも国会の施政方針演説という重要な場で「フェイク」と批判されかねないミスは猛省すべき点ではないでしょうか。

しかし、それ以上に見過ごせない点が散見しています。安倍政権で何回も感じている既視感のある光景だと言えますが、過ちを過ちだと率直に認めない姿勢です。一つの過ちや不都合な事実関係を取り繕うため、いろいろな矛盾や不適切な対応が発生していく事例は決して少なくありません。

江津市によると、男性は昨年末に個人的な理由で関東地方に戻ったそうです。人口が増えた成功例として、すでに転出している男性を取り上げた件について菅官房長官は「3年以上にわたって移住している」とし、「市の起業支援による成功例として紹介するのは問題ない」と説明していますが、後付けの言い訳のように聞こえてしまいます。

もう一つ、今回の事例で気になったのが個人情報という言葉です。男性が現在も江津市に住んでいるのかどうか、菅長官は個人情報を理由に明らかにしませんでした。しかし、その時点で男性が江津市から転出している事実関係は周知のものであり、菅長官も現住していないことを前提に答えていた様子がうかがえたため違和感のある言葉でした。

ちなみに個人情報保護法では個人情報の定義を「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう」と定めています。

事前に当該の男性に対し、施政方針演説で取り上げる旨は伝えていたそうです。そのため、演説内容以外は個人情報という菅長官の説明をまったく理解できない訳ではありません。しかし、そもそも安倍首相は施政方針演説で男性の実名を出していました。転出が取り沙汰された報道では男性とされ、実名が控えられていますが、施政方針演説の全文を掲げた新聞記事等では実名が確認できます。

このような顛末となり、当該の男性の方が戸惑わられている恐れもあります。なぜ、誤解を生じさせないための事実関係の確認が欠けてしまったのか、このような事態を想定した場合、あえて実名を出させなくても地方創生の成功例の一つとして紹介できたのではないか、いろいろ考えてしまいます。特に個人情報の取扱いを重視している安倍政権であれば、今回のような事例で一般の方の実名を示すことは軽率だったのではないでしょうか。

昨年11月に「桜を見る会、いろいろ思うこと」「桜を見る会、いろいろ思うこと Part2」という記事を投稿しています。桜を見る会そのものに関しても様々な疑念が残されていますが、前述したとおり一つの過ちや不都合な事実関係を取り繕うため、いろいろな矛盾や不適切な対応が発生しているように見受けられて仕方ありません。

個人情報を理由に招待者名簿を破棄していると説明しています。第2次安倍政権以降、招待者が急増し、公文書に当たる招待者名簿の保存期間が「1年未満」と改められていました。公文書とは「民主主義を支える国民の財産」とされ、役所が意思決定する過程や結果を記録し、後の検証を可能にすることで行政が適正に運営されることを目的に整えられなければなりません。

それが開催後、ただちに廃棄できる「1年未満」に見直した理由が招待者の個人情報の保護だと言うのであれば釈然としません。同じ人を連続して招待しないという規定もあるようですが、前年の名簿がなくても可能なのでしょうか。さらに1956年と1957年の桜を見る会の招待者名簿は国立公文書館に保管されていたことが分かっています。60年以上の前の会は首相や自民党との近さでなく、役職や功績の有無で招待客を選んでいたことがうかがえています。 

このような事実関係を比較しながら考えていくと、安倍政権にとって守るべき個人情報とは何なのでしょうか。叙勲された方々の場合、氏名や居住している自治体名など特定の個人を識別できる情報が新聞紙面等に掲げられます。本来、桜を見る会の招待者名簿も同様な趣旨のもと公開しても問題のない情報だったのではないでしょうか。

招待された側としては誇らしいことであり、招待されたことをコソコソ隠すような類いの話ではなかったはずです。廃棄した、バックアップデータもない、ここまで頑なに招待者名簿を隠さなければならない安倍政権の対応ぶりこそ、不都合な事実関係を隠蔽するような意図を感じてしまいがちです。このような問題に際し、個々人の感じ方は様々なのかも知れませんが、個人情報という言葉から私自身の思いを綴らせていただきました。

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