2016年8月20日 (土)

核先制不使用、安倍首相が反対

このブログは週に1回更新しています。1週間あると取り上げたい題材に事欠きません。先週日曜の午後、「徴税吏員」というキーワードから当ブログを訪れる方が急増していました。週の初め、次に更新する記事はその理由に絡む話題を取り上げるつもりでした。それが火曜日になって、その話題よりも鮮度の落ちないタイミングで当ブログで扱いたい題材が浮上しました。核先制不使用の問題で、8月16日、新聞各紙の夕刊やネット上に下記のようなニュースが配信されていました。

米ワシントン・ポスト紙は15日、オバマ政権が導入の是非を検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、反対の意向を伝えたと報じた。同紙は日本のほか、韓国や英仏など欧州の同盟国も強い懸念を示していると伝えている。

「核兵器のない世界」の実現を訴えるオバマ政権は、任期満了まで残り5カ月となる中、新たな核政策を打ち出すため、国内外で意見調整をしている。米メディアによると、核実験全面禁止や核兵器予算削減など複数の政策案を検討中とされる。核兵器を先制攻撃に使わないと宣言する「先制不使用」もその一つだが、ケリー国務長官ら複数の閣僚が反対していると報道されている。同盟国も反対や懸念を示していることが明らかになり、導入が難しくなる可能性がある。

同紙は複数の米政府高官の話として、ハリス氏と会談した際、安倍首相は米国が「先制不使用」政策を採用すれば、今年1月に4度目の核実験を実施するなど核兵器開発を強行する北朝鮮に対する核抑止力に影響が出ると反対の考えを述べたという。同紙は、二人の会談の日時は触れていないが、外務省発表によると、ハリス氏は7月26日午後、首相官邸で安倍首相と約25分間会談し、北朝鮮情勢をはじめとする地域情勢などについて意見交換している。

日本政府は、日本の安全保障の根幹は日米安保条約であり、核抑止力を含む拡大抑止力(核の傘)に依存しているとの考えを米国に重ねて伝えている。先制不使用政策が導入されれば、「核の傘」にほころびが出ると懸念する声がある。

2010年には当時の民主党政権が、米国が配備している核トマホーク(巡航)ミサイルの退役を検討していることについて、日本に対する拡大抑止に影響が出るのかどうかを問う書簡を、岡田克也外相がクリントン米国務長官(いずれも当時)などに対して送ったと公表している。核軍縮を目指す核専門家からは「核兵器の廃絶を目指す日本が、皮肉なことにオバマ政権が掲げる『核兵器のない世界』の実現を阻んでいる」という指摘も出ている。

核兵器の先制不使用》 核保有国が、他国から核攻撃を受ける前に先に核兵器を使わないこと。核兵器の役割を他国からの核攻撃脅威を抑止することに限定する。核兵器を使用するハードルが高くなり、核軍縮への理念的な一歩と見なされる。すべての国が対象だが、核保有国同士の約束の側面が強い。核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有が認められている米、露、英、仏、中国の5カ国の中では現在、中国のみが先制不使用を宣言している。【毎日新聞2016年8月16日

新聞もテレビもオリンピックの報道に力を注いでいます。自分自身もいろいろな競技をリアルタイムで観戦することが多く、その結果に一喜一憂していますので「五輪だらけでニュースがない」というような冷めた言い方は慎まなければなりません。この瞬間にも内戦やテロなどによって人命が奪われていることを忘れてはなりませんが、戦争状態ではないからこそ「平和の祭典」と称せるオリンピックが開催できていることも間違いないはずです。

そのような意義や純粋にスポーツを楽しむという意味合いからもオリンピックは確かに大勢の方々が注目する一大イベントです。それでもオリンピックの報道が優先されすぎて、大事なニュースが小さく扱われるようではマスメディアの役割や責任を問わなければなりません。今回、紹介した核先制不使用の問題に対し、各メディア、1回は何らか内容の報道を行なっていたようです。ただ本質的な問題の重大さに比べ、あまりにも通り一遍の軽い扱いだったように感じています。

官邸によるメディアコントロールの成果かどうか分かりませんが、あえて日本政府や安倍首相に対して批判の矛先が向かわないように配慮している姿勢さえ疑わざるを得ません。初めに紹介した毎日新聞も批判の論調を抑えた内容にとどめています。マスメディアの中立さが取り沙汰されがちとは言え、このような安倍首相の姿勢に対し、強い批判の声が上がっていることなども合わせて報道することはマスメディアの大切な役割であるように考えています。

米紙ワシントン・ポストは15日、オバマ米大統領が検討している核兵器の先制不使用を巡り、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、反対の意向を伝えていたと報じた。同紙によると、首相は最近、ハリス氏に対して、オバマ氏が核兵器の先制不使用を宣言した場合、北朝鮮などの国への抑止力が低下し、地域紛争のリスクが高まるとの懸念を直接、伝達したという。伝えた日時や場所には触れていないが、首相は7月26日、来日したハリス氏と首相官邸で会談している。

日本は唯一の戦争被爆国として、核兵器の廃絶を国際社会に訴えている。一方で、日米安全保障条約の下、米国の「核の傘」に依存しており、国連での核兵器禁止条約の制定議論にも消極的な姿勢を示している。米国の核先制不使用宣言の検討に対しては、日本だけでなく、英国やフランス、韓国などが反対の意向を伝えているという。ケリー国務長官やカーター国防長官ら有力閣僚も「核の傘」に依存する同盟国の不安を招くなどとして反対の立場とされ、核政策の変更の見通しは立っていない。オバマ氏は、核実験の禁止を呼び掛ける国連安全保障理事会決議の採択や核近代化予算の削減なども検討している。

広島・長崎憤りの声 オバマ米政権が検討している核兵器の先制不使用政策に安倍晋三首相が反対の意向を伝えたと米紙が報じたことを受け、広島、長崎の被爆者から16日「被爆地の思いに逆行する」と憤りの声が上がった。広島県原爆被害者団体協議会(佐久間邦彦理事長)の大越和郎事務局長(76)は「核の先制不使用は核廃絶を求める被爆者や非核保有国の思いに沿った政策だ。安倍首相は保有国以上に核に依存している。けしからん」と強く非難した。

安倍首相は反対する理由として、核開発を続ける北朝鮮などに対する核抑止力に影響が生じることを挙げたが、大越氏は「北朝鮮は核実験を繰り返している。抑止力にはなっていない」とくぎを刺した。9日の長崎の平和祈念式典で被爆者代表を務め、安倍首相と面会した井原東洋一さん(80)は「日本政府は口では核兵器廃絶を訴えながら、実際の行動は反している。国際社会から信頼を失ってしまうのではないか」と指摘した。

日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の和田征子事務局次長(72)は、5月のオバマ氏の広島訪問に同行し「核兵器のない世界を必ず実現する」と表明した安倍首相の矛盾した姿勢を批判した上で「核先制不使用だけでは核攻撃による報復を制限したことにならない。核廃絶が絶対だ」と話した。

《核の先制不使用》 敵の核攻撃を受けない限り、核兵器を使用しないとの政策。現在、米ロ英仏中の五大核保有国のうち先制不使用を宣言しているのは中国のみ。オバマ米政権は2010年の「核体制の見直し(NPR)」で、核拡散防止条約(NPT)を順守している非核国には核攻撃を行わないと明記したが、先制不使用は宣言しなかった。【東京新聞2016年8月16日

毎日新聞の報道内容と重なる箇所が多くて恐縮ですが、参考までに東京新聞の取り上げ方を紹介させていただきました。上記のように被爆者らの憤りの声を伝えることで核先制不使用の問題、それに反対する安倍首相に対する印象が変わる可能性もあります。もちろん被爆者らの反対する声を聞いても聞かなくても、この問題に際し、ご自身の評価や結論が決まっている方々も多いはずです。

それでも各ニュースに対する関心の度合いは人それぞれ異なり、幅広い立場や年齢層の方々が接するマスメディアの役割を重視した場合、できる限り詳しい事実関係や多種多様な情報を丁寧に発信していくことが求められています。一つの「答え」に誘導するものではなく、あくまでも多面的な情報を提供する役割をマスメディアには強く期待しています。このような情報に接することで、あまり関心のなかった方々も含め、もう少し核先制不使用の問題に対する認識が共有化されていくものと受けとめています。

当然、限られた紙面や放送時間の中で取捨選択という編集権はマスメディア側にあります。しかしながら今回、核先制不使用の報道ぶりは前述したとおり私自身の問題意識とマスメディア側の取り上げ方に大きなギャップを感じていました。そのため、たいへんマイナーな場ですが、このブログの新規記事で取り上げることで、一人でも多くの方に情報を提供する機会に繋げています。ちなみに発行部数トップの900万部を超える読売新聞は8月16日の段階では一切報道していませんでした。

翌17日の夕刊で、16日に行なわれた米国務省のトナー副報道官の記者会見「(オバマ米政権が検討している核戦略の見直しについて)米国や同盟国のための確実な抑止力も重要だ」という内容を伝えた際、この核先制不使用の問題に触れていました。日本政府は米側に「核の傘の抑止力が弱まる」として、先制不使用宣言への反対を非公式に伝えている、と補足していました。夕刊の一面に掲げた毎日新聞や東京新聞の扱いに比べた場合、あまりにも地味な取り上げ方でした。

私自身が過剰に受けとめすぎなのでしょうか。いずれにしても安全保障に対し、個々人での考え方には大きな隔たりがあります。しかし、核兵器の先制不使用は中国も宣言しているように基本的な立場の表明として、本来、核保有国すべてが速やかに行なうべきものだろうと考えています。それにもかかわらず、専守防衛を厳格化した平和憲法を抱き、被爆国である日本の首相が「核兵器のない世界」をめざすオバマ大統領の判断に水を差す、たいへん残念で悲しいことです。

安全保障は軍事力での抑止に依存しすぎた場合、際限のない軍拡競争に陥りがちです。さらに外交関係での疑心暗鬼は、追い詰めすぎた先の暴発や一触即発の事態を招くリスクを高めます。せめて核兵器を先制使用しないという宣言を行なうだけでも、外交関係における信頼や安心感を高めていく一因に繋がるはずです。「核の傘の抑止力が弱まる」という他力本願で後ろ向きな評価ではなく、核先制不使用は安全保障面でも前向きな発想として安倍首相や日本政府にはとらえて欲しかったものと考えています。

この問題に対し、とりまく情勢に対する認識をはじめ、個々人での「答え」は枝分かれしていくものと受けとめています。きっと安倍首相の判断を支持される方々も多いのだろうと思っています。しかし、どちらの「答え」が正しいのか、間違っているのか簡単に結論は出せないのではないでしょうか。ただ歴史を振り返り、「『ロンドン狂瀾』を読み終えて」で紹介した軍縮条約を結ぶことが国益だと考えた浜口雄幸元首相らとそれを阻もうとした勢力との構図などを思い起こすことも大切な試みであるように感じています。

最後に、この問題を取り上げた他のブログ記事も紹介させていただきます。一つは外交官だった天木直人さんの「核先制不使用に反対していた事を米紙にばらされた安倍首相の恥」で「安倍首相は総辞職ものだ。国民に対する裏切りになる」と強く非難されています。もう一つは弁護士の澤藤統一郎さんの「憲法の理念に真逆の首相をもつ、ねじれた日本の不幸」で「非武装の平和も、武力による平和もともにリスクはある。武力による平和を求める方策は、際限のない武力拡大競争と極限化した戦争の惨禍をもたらすという大失敗に至った」という言葉が記されていました。

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