2018年7月21日 (土)

カジノ法案が成立

前回記事「西日本豪雨の後に思うこと」のコメント欄で、下っ端さんから「はて、今回の記事は、何に対する何の批判なんですか?」という問いかけがありました。その記事の中で提起していた「至らなかった点があった場合、指摘を受け、率直に反省することで次回から同じような失敗を繰り返さないことが重要です」という思いを前回の記事には託していました。

その上で幅広い情報を提供する場の一つとして、いろいろな見方があることを紹介しています。そのような内容に対し、どのように感じられるのか、何を批判している記事なのかどうか、読み手の皆さん一人ひとりの受けとめ方は一律ではないものと考えています。何か一つの「答え」を押し付ける意図はなく、私自身の率直な思いを発信しているブログだと言えます。

さらに「もっと切迫した危機感を伝えるメディアの報道や政治の働きかけがあれば、救える命が多かったはずという痛恨の思いを私たちは共有化しなければなりません」という言葉は、当然、地方自治体職員の役割や責務を強く認識しながら「私たちは」につなげていたつもりです。尾木さんのツイートを紹介した流れからメディアと政治を並べた記述となっていましたが、ことさら国の初動体制だけを批判したものではないことを改めて補足させていただきます。

加えて、どの党にとって有利か不利かという政局的な視点から離れ、もし多くの国民が望み、国民生活にとって不可欠な重要な法案だった場合、どのような災害に見舞われようとも粛々と審議は進めるべきものと考えていることを前回記事の中に書き残していました。この言葉は災害を利用し、国会での審議を拒み、廃案に持ち込むような手法に向けても問題提起しています。

要するに審議対象の法案が本当に国民にとって望ましいものなのかどうか、何が問題なのか、論点を明らかにしながら徹底的に議論し、政局的な視点からは離れて判断して欲しいという願いを込めた言葉でした。とは言え、与野党の現有議席の差が歴然としている中、淡々と審議に応じていたら問題点をアピールすることもできず、数の力で押し切られてしまうだけという見方があることも悩ましい点です。

問題のある法案のゴリ押しを続けていけば選挙で国民からの審判を受け、政権与党は手痛いダメージを与えられるという関係性が健全な民主主義の姿だと思っています。しかし、個別の政策や対応が国民から不評を買っていても、内閣や自民党に対する支持率は極端に下がらないという傾向が最近の世論調査から読み取れています。これからも「今の野党には託せられない」という消去法によって現政権が続くのであれば、決して国民にとって望ましいことではないはずです。

もちろんトータルな意味で、安倍政権を高く評価されている方々が多いことも認識しています。オールorナッシングで物事を見ている訳ではありませんが、どうしても個々の振る舞いに対する評価と内閣支持率との「ネジレ」を感じてしまいがちです。今回の記事では全体的な話を事細かく論じられませんが、機会を見て何が問題なのか、個人的な思いを提起させていただくつもりです。

今回は個々の問題点の一つだと言えるカジノ法案について触れてみます。昨日、多くの国民が反対、もしくは慎重な審議を求めていたカジノ法案が参院本会議で可決、成立しました。IR(統合型リゾート)実施法案と呼ぶべきという指摘もあろうかと思いますが、現政権寄りと見られがちな読売新聞もカジノ法案と称していましたので当ブログでもそのように記しています。なお、すでに法案は成立した訳ですが、今回のタイミングではカジノ法案と呼ばせていただきます。

さて、ご縁があって当ブログをご覧くださっている方々に対し、今回の記事でも幅広い情報や見方を提起する機会につなげさせていただければと考えています。前述したとおり一つの「答え」を押し付けるものではありません。物事それぞれ何が正解なのか、容易に論じられないものと考えています。カジノ法案も同様なのでしょうが、より望ましい評価や判断につなげるためには幅広く、多面的な情報に触れていくことが欠かせません。

IR(統合型リゾート)実施法は「特定複合観光施設区域整備法」が正式名称です。IR施設の延べ床面積のうちカジノが占める面積は政令で「3%以下」に抑えられる予定です。そのため、IR実施法案の全体像を理解しないまま「カジノ法案」と煽りながら批判しているという論調を耳にしていました。フリーアナウンサーの長谷川豊さんがその一人で「今IRの批判している連中のスクショを絶対に残しておこう」というブログ記事を投稿されていました。

そのブログ記事の中で長谷川さんは「カジノを作ったらイソンショーがーだそうです。バカバカしい。日本人は何十年も前からとっくの昔にギャンブル漬けです」とし、「依存症が問題なのであれば、まずパチンコ規制でしょ」と訴えています。確かに依存症の問題が深刻であればカジノ法案の動きに関わらず適切な対策を講じていかなければなりません。だからと言って、カジノ法案の問題性を掘り下げずに容認していく理屈にはなりません。

そもそも長谷川さんはカジノとIRは完全に別物と説明しています。当たり前なことですが、IR実施法案の中にカジノが盛り込まれていなければ批判の声は高まっていないはずです。面積比率の問題ではなく、カジノそのものの是非が問われていたものと理解しています。長谷川さんは海外の成功例を紹介しながらIR法案の有益さや健全さを説明していますが、果たして「答え」は一つなのかどうか疑問に思っています。

カジノは刑法185条の賭博罪に当たります。一方で、刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めています。例えば、医師は手術で患者にメスを入れます。本来は傷害罪ですが、医師には正当な理由があるため犯罪になりません。違法性阻却事由として、他に正当防衛や緊急避難などがあり、公営ギャンブルは競馬法や自転車競技法などによって合法化されています。さらに公営ギャンブルは違法性を阻却する要件として次の8点が考慮されています。

  1. 目的の公益性
  2. 運営主体の性格
  3. 収益の扱い
  4. 射幸性の程度
  5. 運営主体の廉潔性
  6. 運営主体の公的管理監督
  7. 運営主体の財政的健全性
  8. 副次的弊害の防止

ちなみにパチンコ・パチスロに関しては「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」上の遊技であって賭博ではありません。パチンコ業は刑法の賭博罪が例外として定める「一時の娯楽」(刑法185条但書)の範疇を超えないように、常にそのギャンブル性(射幸性)がコントロールされながら合法的に存在しているそうです。したがって、上記8項目を満たした正当行為(刑法35条)として違法性が阻却されているものではありません。

今回、カジノはIR実施法のもとに例外的に合法化しました。しかし、公営ギャンブルと同様、上記8項目が完全に満たされるのかどうかは不透明です。カジノ事業者が国などに納める収益の30%は地域振興やギャンブル依存症対策に充てられるため、政府は「収益の社会還元を通じ、目的の公益性は実現する」と強調しています。ただ運営主体は民間のカジノ事業者、それもノウハウを持つ外国の企業が参入できるようになっています。

「射幸性の程度」に関してはカジノの設置数を最大3か所に抑え、日本人の入場回数を「週3回かつ月10回」までとするなど、「重層的・多段階的な依存症対策」を通し、「副次的弊害の防止」にはかっていけると政府は説明しています。しかしながら最大の懸念点はカジノの場合、事業者が利用客に賭け金を貸し付けられる仕組みを認めたことです。しかもカジノ事業者は貸金業者ではないため、年収要件など貸金業法の総量規制が適用されません。

「いずれカジノで勝って返せると考えていました」、カジノにのめり込み、ファミリー企業から総額106億円を借り、有罪判決を受けた大王製紙前会長の井川意高さんの言葉です。ダイヤモンド・オンラインのサイトで「カジノで106億円熔かして服役、大王製紙前会長のオーナー経営者論」という記事を閲覧できます。「カジノで地獄を見るのは、負けたときに現地でお金を借りるからなのです」という言葉の重さは真摯に受けとめなければなりません。

持って行ったお金がなくなり、自分の預金をATMから引き出さない限り、負けたら終わりとなる競馬やパチンコなどとは異なる質のギャンブル依存症の懸念はくすぶったままだと言えます。前述したとおりギャンブル依存症の問題はカジノ法案の動きに関わらず深刻であり、カジノ法案に先立ち対策法が成立しています。これまで「減収に苦しむ公営競技事業」「競輪労組の大きな成果」というブログ記事を投稿している自治体職員の一人として、今後、機会があれば依存症の問題にも触れてみたいものと考えています。

土曜の朝、自宅に届く読売新聞の政治面に「カジノ法 公明に配慮 自民、今国会成立に固執 来年選挙 切り離し図る」という見出しが掲げられていました。ネット上にその記事自体は見つけられませんでしたが、同様の内容を西日本新聞が報じていました。最後に、その西日本新聞の記事を紹介させていただきます。「来年の選挙戦のころには批判は消えている」という有権者が見下された言葉を忘れないためにも。

西日本豪雨の被害が拡大する中、与党が統合型リゾート施設(IR)整備法案の成立を急ぐ背景に、カジノ解禁に反対する支持者の多い公明党の意向がある。来年の参院選や統一地方選への悪影響を避けるため、選挙戦までの期間をできるだけ空けておきたいという思惑だ。「推進法で決めたことだから、その通り成立させることが重要だ」。公明の山口那津男代表は18日の会合で、IR整備法案に賛成する理由を強調した。

整備法案は、2016年に成立したIRの「推進法」に基づく。同法は政府に対し、施行後1年以内をめどに整備法をつくるよう求める内容だ。当時、公明の支持母体の創価学会はカジノ解禁に強く反発し、党は衆参の採決で異例の自主投票に追い込まれた。山口氏や井上義久幹事長ら、複数の幹部が反対した。「既に成立した推進法に従うのは当然だ」−。公明幹部は、整備法案について学会員をそう説得してきた。

ギャンブル依存症対策法の先行成立も、公明は強く主張した。学会員に「依存症対策は万全だ」と理解を求めるためだ。自民党は、森友、加計問題や財務省のセクハラなどで国会審議が暗礁に乗り上げた3〜5月、同法の審議を後回しにすることを検討したが、自民国対幹部によると、公明が絶対許さなかったという。同法は今月6日に成立した。

それでも公明の中堅議員は「整備法成立が選挙に近づくのはどうしても避けたかった」と打ち明ける。同党は昨年の衆院選で議席を6減させ、比例代表の得票は2000年以降で初めて700万票を割った。統一地方選の勝敗は、3千人の地方議員を擁する公明にとって党勢に直結する。野党は「豪雨対策よりカジノを優先している」と批判するが、公明幹部は「来年の選挙戦のころには批判は消えている」と意に介さなかった。 【西日本新聞2018年7月20日

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